今年の夏は暑さが厳しかったように思える。けれども去年の夏が暑かったかどうかは憶えておらず,帰着の出来ない何かが含まれ千切られ,簡単に楔を打つ事でしか憶えていられないのはもう毎年の馴染み。

 やおらに起き上がると水とコーヒーを飲む。そして読みかけの本を開く。ぼうっとする。繰り返し。

 去年の夏は何をしていたんだっけ。

 記憶がぽろぽろと零れてゆく。一新されず改めて内省もされず,くどい悪態のようなものが終始に付きまとい年暦と年齢だけが増える。変化は喜ばしい事ではなくなって,維持が迎えられて,単調或いは凡々としたものが肥えてくる。そういうものを鬱蒼としたものだと思う事だって変わらないけれど,それに属する尺の取り方だとか下向きの表情だとか愛想の施し方に差異を感じるようになってしまった。
 差異を感じ受ける事がとりもなおさず的外れだと云われてもそれはそれで構わない。かなしいけれど。

 誰かの汗ばんだ衣服の匂いだけが夏にまつわるイメージ。そして離別。

 水とコーヒーを飲む。そして読みかけの本を開く。ぼうっとする。繰り返し。